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「よく言った、セリス」
「レヴィン!」
セリスの背後に立ったのは、ロプトウス滅亡後の暗黒教団や、他大陸に根を張る地竜族の動向を調査していたレヴィンだった。
いきなりの出現に、あっけにとられるセリス達に向けて、レヴィンは衝撃の事実を告げる。
「皆、よく聞け。暗黒竜はロプトウスのみではなかったのだ……アカネイア大陸にて滅んだ、『暗黒竜メディウス』。このユグドラル大陸で滅んだ『暗黒竜ロプトウス』。これだけでも2体いる上に、さらに2体確認された」
「な、なんだって!!」
さらにあっけにとられ、中にはめまいがする者も現れる。
それだけ強烈な情報であるのだ。
レヴィンはさらに続ける。
「やがて、まだ混乱しているユグドラル大陸を目標として、その2体の暗黒竜と眷属、下僕の暗黒教団が、ユグドラル大陸の残存勢力の要請を受けて合流、再編成のあと、襲いかかってくる。アカネイア大陸等からの援軍はあるが、ユグドラル大陸自体を強力にしないと今度は平和と勝利は勝ち取れない……もはや、待ったは効かないぞ、セリス」
レヴィンの告げられた厳然たる事実。
告げられた相手は解放軍の盟主、セリス。
仲間達の視線も、自然に注がれる。
大陸各国の疲弊、民衆の無気力感。
そこに再度暗黒竜が襲いかかれば……それこそ、大陸全体が生贄となる。
一つの大陸を押さえたら、そこを本拠地にしてさらにテロ行為は広がり、混乱は極みに達するだろう。
その混乱こそ……「地竜族」の望むこと。
「……800年もの間封印されてきた武闘技が、この聖戦と呼ばれた戦いの中で、僕たちの手で復活を遂げたのは、そういう理由からだったんだね……分かったよ、もう、躊躇していられない!」
セリスが決然とした瞳をレヴィンに告げる。
現在は剣聖オードの血脈が中心となって伝える「流星剣」「月光剣」「太陽剣」の三種類しかなかったが、かつて十二聖戦士の内、大司祭ブラギ以外の11の血脈すべてにそれらに類する技が存在した。
それらを称して「武闘技」と言い、イード神殿の地下に他の知識とともにライブラリーに封印されていたのが、セリス達解放軍が解除し、戦力として活用したのである。
「僕はやる……この大陸を暗黒竜に渡さないためにも……僕らの戦いは、まだ終わらない、これからなんだね……」
「そうだ、我々は変わってやることは出来ないが、手助けは出来る。セリス、お前が希望を失わない限り、お前の旗に集まった者たちはお前を信じて、ついて来るだろう」
「分かった。大統領でも何でもやって、この大陸に平和と安全を呼び込んでみせる!」
*
数日後、官僚達の前にセリスが現れ、政治の場に立つ事を了承する旨を告げた。
「僕の名が、これまでの行動が政治に役に立つのなら、使ってくれてもいいよ。但し、条件がある」
そう言ったセリスは、その条件を読み上げる。
・ ユグドラル大陸全体を一つの国家にする。
・ 皇帝制ではなく、1期4年交替の大統領制を用いる。
・ 名称は「ユグドラル連合共和国」
・ グランベル帝国は廃止し公爵領は「特別州」として独立する。
・ 外周6カ国は「王国」から「共和国」として、大統領と任期は同じく1期4年の首 相制を用いる。
・ エッダ公領は「エッダ教団都市」としてイード神殿とともにエッダ教と連合共和国 の共同管理下に置き、神竜族の古代知識の流出、悪用を防ぐ本拠とする。
・ ロプト教団は「エッダ教の一分派」として扱い、迫害は決して許さない。また、暗 黒教団からの脱退者はこれを保護する。
しかし、テロ行為や犯罪に走る者はこの限りにあらず。
一度息を継ぎ、セリスはさらに読み上げる。
・ 暫定大統領並びに暫定首相として、旧帝国官僚からの推薦をうけ、セリス以下解放 軍の、各国首脳に縁のあった者が就任するが、1期4年のみの期間限定であり、再任 は堅く固辞する。
任期が過ぎた場合、直ちに選挙を行い、後任を決定し、政権を委譲する。
・ また、各国の実際の政治は官僚や議会の議員が行い、行政側に就任した解放軍のメ ンバーは、あくまでもオブサーバーとして意見は提出するが、実務は行わない。
・ これからも予想される暗黒教団のテロ行為や内乱に関する事は例外として、解放軍 が専門の任務としてこれに当たり、関連法律を制定し、ユグドラル大陸全体の平和と 安全に尽くす。
官僚達から声が上がる。
「セリス様……それでは政治をしているという意味がないのでは?」
「それに、軍力を独立するというのは軍関係の暴走を招きませんか?」
その喧噪を押さえるようにパルマークは言う。
「静まれ、まだセリス様は全部語り終わってないぞ」
その一言でさすがに声自体は収まる。
が、セリスの言葉は、そのざわめきに対して追い打ちを掛ける。
・ 解放軍は「ユグドラル神竜騎士団」と名称を改称し、あくまでも大陸全体の平和を 守護する防衛軍としてのみ機能するように組織改編を行う。また、騎士団内の所属員 は、就任後、永遠に被選挙権を放棄する。
また、行政官僚への就任は堅くこれを禁止し、政治勢力から完全に独立。
これまでの政治派閥による軍力の利用を完全に防止する。
但し、各国や特別州に配置されていた守備軍はそのまま配置を続行し、騎士団との 協力を持って、戦力の低下を防ぎ安全を確保する。
・ 暫定大統領並びに暫定首相並びに、解放軍の行政側出向メンバーも、神竜騎士団の 所属員として、平和に尽くす。
・ 暫定大統領以外の、選挙で選ばれた大統領に対しては、神竜騎士団に対する義務・ 権利変更は認められない。
「これで以上」
セリスが条件の提示を終了する。
流石にこれを聞いた官僚達の中には怒り出す者も出てくる。
「それは解放軍の横暴だ!」
「何のためにそこまで我々をおとしめるような事を言う!」
怒声に対して、セリスは静かに、しかし強い意志を以て言う。
そこには、官僚に対して怒った幼さの残る表情ではない。
暗黒竜ロプトウスに、異父妹ユリアと立ち向かったときの、すべての敵を射すくめる表情であった。
「あくまでも完全に確定された情報ではないが、すでに第2・第3の暗黒竜に率いられた暗黒教団が行動を開始している、その目標はこの大陸も含まれている。そんなときに、あなた達の騒ぎにかまけて防衛を怠りたくない。はっきり言う。我々はまだあなた達を信用していない。我々解放軍はあなた達政治官僚への目付役でもあり、この大陸を守護する存在になる。認める、認めないは問題ではない。政治を執ってもらいたいというのなら、報酬としてこれぐらい飲んでも問題ないでしょう」
流石に官僚達の不満の声が、水を打ったように静まる。
今解放軍の協力がなければ、治安の維持も難しいのである。
「文句がなければ、直ちに条件の通りに動いてもらいます……時間は待ってくれないのだから」
これが、セリス達解放軍の、新たなる戦いの幕開けであった……。
FIN